エフェクターよもやま話 (2008年 Modified version)†
なにかのお役にたてばと思い2002年に自ら執筆した『エフェクターよもやま話』です。
最低限の体裁の編集と加筆(誤記訂正と、補正・補足のための注釈等追加)にとどめ、原文のニュアンスをあえて残しました。
時代を超えた徒然なる乱文、お楽しみいただければ幸いです。
前書き(by RE-J / 2002年1月21日):良い音への修理屋をしながら得られた知識のなかで、エフェクター選びや音作りに役立ちそうなネタを集めて、この「エフェクターよもやま話」を編集しました。みなさんが、「愛器と呼べるエフェクター」に出会えるヒント・手助けになればと心から願っています。
その1:OP-AMP ICに関する解説記事†
RE-J wrote:
> .....
> 到着したBOSS OD-1を、早速ばらしてみると、ななな...なんと!
> ICは、TEXAS INSTRUMENTS社のTL4558Pが実装されている!!
> この当時のOD-1には、JRC4558Dが実装されていると思いこんで
> いたので、これにはかなり驚かされました。(*_*)
> 当然ながら、音のほうもずいぶんと印象の異なるものでした。
>
> ☆★ICに関する解説は、また別の機会に掘り下げてみることにします。
という自分の記述を受けて、エフェクターの中で増幅・周波数補正・発振などのいろいろな回路に使われる万能IC、理想演算増幅器ことOP-AMPについて解説します。
セカンドソース品†
- 実は、4558という型番は、Raytheonという半導体メーカーが、RC4558という元祖のOP-AMP ICで取得した型番で、同じもの(同等なもの)を別の半導体メーカーが生産した場合、セカンドソース品という名前で呼びます。
- RC4558のセカンドソース品は国内外14社から供給され、その改良品として型番を取得したものは数え切れないほどあり、その後の全てのOP-AMPにとってのお手本であるという、まさしく元祖中の元祖なのです。
- 現在、エフェクターの回路の中でよくお目にかかる、または容易に入手できる4558の子孫は、
- JRC NJM4558D (日本国内での標準品)
- JRC NJM4558DD (4558の超低雑音品)
- TEXAS INSTRUMENTS TL062 (4558改良低消費電力品、JFET入力)
- TEXAS INSTRUMENTS TL072 (4558改良低雑音品、JFET入力)
- Toshiba TA75558P (4558改良品) などがあります。
- TL072は、RockmanX-100やSustainorの中でもたくさん使われていましたし、Marshallのガバナーなど諸外国製のエフェクターではあたりまえのように使われています。外国での入手性がよいことと、低雑音という部分が採用されている理由でしょう。
音の装置としてみると(大いに私見で失礼)†
- セカンドソース品で4558の型番が同じであったら、ほぼ同じ動作をする、また4558系のOP-AMPであれば、電気的特性の違いは少々あっても、基本の動作が同じなので、どれを選んでも同じように動く、むしろ低雑音品なら音の特性が良くなることはあっても悪くなることはない、と考えるのは(普通の)電気屋の悲しい特性です。(かくいう私も、昔はそう思っていたうちの一人でした。)
- 今回の調査の結果、ほぼ同一生産時期のOD-1にJRCの4558D・TIの4558という、音の素性はまるで違うと思える2種類の素子が実装されていたわけで、設計の上では4558というICの型番を指定してはあったものの、メーカー指定まではしていなかったので、生産段階でJRCのものやTIのものが、その時点での調達しやすさで混入していったのでしょう。
- 品質管理で世界に名が知れるMade In Japanの製品にもかかわらず、意外なことに音を致命的に左右してしまうばらつきがおきてしまい、同じOD-1でも他の人と同じ音がでるものが入手できるかどうか、運まかせになってしまったわけです。
- しかしメーカー側からすれば、ICが違っていてもちゃんとGAINを上げれば歪むし、測定器で歪んだ音を測定しても、ほぼ同等な特性を示している状態なので、これは大量生産の宿命であり、やむを得ない状況と言えるでしょう。
- 逆にユーザー側(とりわけ「歪み」という、電気的な特性だけでは良し悪しに結びつかないロック系楽器ユーザーの場合。)に求められるのは、「製品の機種を選ぶのではなく、自分の納得した音を選ぶ必要がある。」こういう結論になります。
- 初期のOD-1に実装されていた、QUADタイプOP-AMP(4個演算増幅回路が内蔵されたIC)のOD-1がとても良い音がする、との評判もありますから、OD-1の開発過程でミュージシャンのヒアリングの結果OKがだされたものに使われていたICや、Jeff Beckが使ったと言われるOD-1に実装されていたICは、いったいどこのメーカー製のものだったのか?素朴な疑問が残ります。
耳と感性で評価†
- ボディーの材質が木であるがゆえに、同じ音のするギターはこの世の中に2本ないと言いますが、エフェクターなどの電子・電気楽器にも、特性のばらつき(電気的な動作ではなく、聴感上での。)があります。デジタル楽器とて、心臓部の音を作り出すところは完全に同じ動作をしても、最終的には音声信号の回路をくぐるわけですから、例外ではありません。
楽器やエフェクター等の評価レポート等も、大変参考にはなりますが、最後はご自分の耳と感性で評価を下すことをお勧めします。
♪2008年追記:
- 初期のOD-1では、RC3403なる型番の14ピンICのものが有名です。RE-J ProjectのWebサイトトップの画像に使われています。
- 元祖は英国製であったガバナーは、韓国製になるころからJRC NJM072Dなどを実装する可能性が高くなっています。
その2:LEDと歪みの関係†
エフェクターの解説記事なのですが、LED(発光ダイオード)というと光を出す電子素子のことで、変だな?と思われたことでしょう。
歪みを作り出す方式の大分類(Overdrive vs. Distortion)†
- 実は、歪みを作り出す方式には、電気的に分類すると2種類あります。
- 一つ目が、真空管アンプをフルボリュームにする際に代表されるケースで、電気回路の動作限界を越えた入力が与えられ、音の波形を正確に増幅できなくなり、波形の頭が丸くなるために起こる、自然な回路の歪みです。限界を超えた(over)動作(drive)なので、オーバードライブと言われているようです。
- 昔むかし、偶然エレキギタリストが大きな音を追求するうちに、ボリュームつまみが10になってしまい、出てきた迫力のあるサウンドが、いつの間にか市民権を得たような次第です。
- 二つ目が、エフェクターで作り出す歪みのケースで、電気回路の中で波形の頭を強引に(電気的に)ちょん切ってしまう動作を起こさせ、歪んだというか、頭のつぶれた音を作り出す手法です。 強引に歪ませるので、言葉どおり歪み(distortion)と呼ばれていました。
- 最近の言い方として、歪んでいない音=きれいな(clean クリーン)に対比させて、歪んだ音=ざくざく砕けた(crunch クランチ)と呼ぶこともあります。
- 後者のほうは、どちらかというと音を伸ばす目的と、生音以外の新鮮なサウンドを出す目的の両方で、電気屋が冗談半分に作ったものが、どんどん進化していったものです。
ダイオードによる歪み動作†
- さて、お話の核心に迫りますが、この歪みの頭ちょん切りによく使われるのが、ダイオードと呼ばれる小さくて透明なガラス管(直径2mm 長さ5mm程)の電子部品です。
- このダイオードは、微少な電圧がかかっている間は電気を流さないのですが、ある一定の電圧に至ると急に電気が流れてしまう特性を持っています。
- このため、半分電気を伝導する素材=半導体と呼び、まさしく音の波形が伝達する回路に(流れる方向があるので、極性を変えて2本並列に)挿入すると、信号波形が小さいうちは知らんぷり、大きくなると急に電気を通して、
波形の頭だけちょん切ってしまうのです。
- MXRのDISTORTION+やRATTは、このちょん切りを音声信号が流れる回路上でどうどうとやってしまうので、切った部分が鋭角のとがった感じになり、音で聴いてもきつい感じの歪み音になります。(ハードクリップと呼びます。クリップ=端を切り取る。)
- これに対して、BOSSのOD-1やTube Screamerは、信号増幅回路の増幅率を制御する部分でこれを行うため、信号の再生がゆるやかに頭うちとなり、角がない丸い波形になり、聴いてもマイルドな感じの音になります。(ソフトクリップと呼びます。真空管アンプの飽和特性に近くなります。)
LEDを使った歪み†
- いずれの方式でも、この歪み用のダイオードとして、なんと本来光をだすために作られた半導体である、発光ダイオードが使えるのです。そして、特性に忠実に仕事をする普通のダイオードと比べて、いいかげんな動作をするのでしょうか?かなりワイルドな感じの歪み感が特徴です。
- LED歪み方式では、Marshallのガバナーっていうやつが有名で、エフェクターの中を開けて、エレキをがーんと弾くと、2個のLEDがぼわ~っと光るのを見たときは、笑いが止まりませんでした。
- 光を出すための素子を、動作が似ているからといって、箱の中に納めて使う発想は、まじめな電気屋には思い付かないことで、どんな音がするのかな?と貪欲に考えた(素敵にアホな)人間にしかできない発想だったからです。
- 他にもLEDを使った歪みエフェクターはたくさんあるのですが、はっきり光るほどの電気エネルギーを加えているものはあまり見かけません。
- あまり意味はないのと思いつつも、LEDの色と音の関係を調べてみたい衝動にかられてしまいます。特に日本が世界に先駆けて開発に成功した青色発光ダイオードはぜひ試してみたいものです。(でも、普通のLEDよりも、10倍以上高いのです!)
歪む音を作る上では、ダイオードの特性はとても重要なことなので、きっと世界のどこかに、最もエレキギターのサウンドに合うものが眠っているのではないかなと思います。
♪2008年追記:
- Tube Screamer系ペダルで、[ダイオード][オープン(回路を開放)][LED]を切り替えるものをよく見かけます。
- 身近なところでは、TS-9DXのモード切り替えによってLEDを使った歪み音を体験できます。
- BOSS SD-2独自の少し揺らぎ感のある歪みサウンドには、LEDが隠れた貢献をしています。
- 現在では青色ダイオードはかなり安くなっており、10倍もの価格差はありません。
その3:トゥルーバイパス†
今回は、エフェクターそのものの音の解説でなく、エフェクターを接続した際に起きる音の劣化について解説します。
切り替え方式の大分類†
- エフェクターの音の切替え(エフェクトのON/OFF)には、必ずスイッチが必要なのですが、方法が2種類あります。
- 一つは電子式切替え回路のもので、BOSSのエフェクターのような、ばね式のペダルを踏み込むことで、電子回路の中で音の通過する流れを切替えてやる方式です。 この方式の利点は、切替えが素早くノイズが発生しないことです。この方式の欠点は、エフェクトOFFの状態でも、最低限の電子回路を通過してしまいますので、直接アンプにつないだ時と比べて、少しだけ音が変わってしまうことにあります。 音の劣化としては、レベルは下がらずに、ダイナミックレンジが減って低音側がさびしくなる傾向がみられます。
- もう一つは、金属の丸い突起のついた機械式(フット)スイッチで切替える方式です。この方式の利点は、エフェクトOFFの時に電子回路を一切通過しないので、音が(ほとんど)変わらないことにあります。この方式の欠点は、切替えノイズが少し発生してしまうことと、音の切替え時間が電子式に比べれば多くかかるため、音がほんの少し途切れることです。
機械式(フット)スイッチ方式の盲点†
- 機械式(フット)スイッチ方式であれば、エフェクトOFFの時に音が変わらないはずなのですが、ここに少し盲点があります。
- 機械式(フット)スイッチは、ON/OFFのスイッチ回路が複数内蔵されたパーツで、ワウワウ等エフェクトONを示すLEDインジケーターがないものには1回路のスイッチが使われ、その他のエフェクターでLEDインジケーターがついているものには普通2回路のスイッチが使ってあります。
- 普通のエフェクターで多用されている2回路のフットスイッチでは、1回路をエフェクトのON/OFFに、もう1回路をLEDの点灯用に使うため、厳密にはエフェクトオフの際でも、エレキの出力がエフェクト基板の入力側にぶらさがったままになり、エフェクターをつないだだけで、(ONにしていないのに、)音が劣化(レベルが下がる、音色がくもる。)してしまう現象を引き起こします。
- この音やせを解消するには、3回路のフットスイッチを入手し、2回路で音の入口・出口両方を同時に切替え、エフェクトオフの際は、エフェクター内部の配線だけしか通過しないようにしてやり、残りの1回路をLEDの点灯用に使うのが良い解決方法です。(2回路の切替えのまま、エフェクト基板から出力される微少な電圧を検出して、LEDを点灯させる頭のいい手法もあります。)
トゥルーバイパス方式†
- エフェクター内部の電子回路をエレキギターの信号回路から完全に切り離す手法は、「トゥルーバイパス」と呼ばれていて、エフェクターを複数使用するミュージシャンや、生音重視のミュージシャンに必須のエフェクターチューニング方法です。(電子式切替え方式ではないことだけで、この表現を使っている場合がありますので、要注意です!)
国内ではこのような機械式3回路のフットスイッチで、しかも微少な音の信号を通過させることを前提としたパーツは入手しにくいのですが、もともと音を変えるためのエフェクターに、エフェクトOFF時の音の純粋さを与えるという、相反する目的を達成するため、なくてはならない最も重要な部品なのです。
♪2008年追記:
その4:Rockman X-100†
今回は、ヘッドフォンアンプでありながら、伝説的な音で有名な Rockman X-100 について、そのサウンドの特徴などを解説します。
「ボストン」サウンド†
- ボストンのギターサウンドといえば、あのグォ~ン(ウネウネ)っていう感じの歪み+コーラスかかりまくりの音と、コンプレッサーのかかったパリリンっていう感じの音(もちろんディレイ+コーラス)ですね。
- なんと、Rockman X-100 にはボリュームのような回転させて設定するタイプの操作つまみが全くついていません。基板に直接付けられた小さな入力アッテネーター(ボリューム)がありますが、入力レベルが合わないときに操作するためのものです。
- 音色は以下の4種類が切替えスイッチで変えられるだけです。
- [DIST] 正統派ボストンギターサウンド!分厚い歪み+うねりです。
- [EDGE] リフ向きの、がしゃがしゃした歪みサウンドです。
- [CLN1] クリーンその1、高音部のきれいな音です。
- [CLN2] クリーンその2、低音部が思いっきり強調された音です。
- でもこの4種類のサウンド、個人的な好き嫌いはあるでしょうが、いずれも「使える」サウンドなのです。つまり、耳に優しくて、フレーズやリフが自然と頭の中から沸いてでてくるような、実においしい設定がしてあるのです。
- 特にステレオで再生した時の、うねり具合と安定感が両立された設定なのは圧巻で、スタジオのミキサー卓に直結して、モニタースピーカーから再生された音を聞いた時は、「素晴らしい!」の一言でした。普通、エフェクトをかければかけるほど、しょぼくなってしまったり、不安定な印象が混入するものなのですが、とにかく重厚で壮大なのです。
Rockman X-100の要素†
- Rockman X-100のエフェクターとしての要素は、「コンプレッサー」「イコライザー」「ディストーション」「ステレオコーラス」「ショートディレイ」なのですが、例えば個別のエフェクターを5台連結しても、X-100のサウンドの完成度はとても再現できないと思います。
- それに5台もエフェクターがあれば、つまみだけで10個以上です。一生懸命設定をつついて、やっと80%くらい似た感じの音が出せる程度でしょう。
Rockman X-100の結論は「華麗なるワンパターンサウンド!」につきます。
- 私もよく言うのですが、そこそこの音が100種類だせるより、「使える」1種類の音のほうが(少なくとも演奏するには、)よい!、この理念がこめられているように思えてなりません。
- 一番大事なのは、演奏していて(聴いていて)気持ちよいことと、そのサウンドによって、自分自身の中からどんどん新しいフレーズや演奏へのアイデアがインスパイアされる(沸き起こされる)こと、この2つですね。
Rockman X-100の更なる分析†
- さてさて、回路的には OP-AMP(TL072)が相当数使われていて、コンプ+周波数補正+歪みの全てをこなしています。空間系の回路はアナログディレイことBBD素子が複数種類使われていて、コーラスとショートディレイが構成されているようですが、普通よくある擬似ステレオ(片方が生音、片方がエフェクト音)ではなく、まじめに左右を同期してゆさぶってあるようです。
- しかもそのゆさぶりには、Wa.Wa.Wa Wan..Wan Wa.Wa.Wa Wan..Wan .....という感じの、複雑な周期が与えられています。
- 弾いた間だけやけにずっと光りつづける2連の赤色LEDがあり、もしかすると歪み回路のクリップ用ダイオードかもしれません。(同じく伝説のミニラックエフェクト、Rockman Sustainorの例から分析すると、LEDインジケーターをたくさん付けるのが好きなエンジニアが設計しただけとも思えます。)
- 汎用の素子の組み合わせで、特別なチップなどはないように見受けられるので、なんでこんなサウンドが出せるのだろう?とまたまた思ってしまいます。
目指すサウンドが明確にあって、回路が組まれているのでしょう。トムシュルツ大先生とこの回路を作ったエンジニアに敬意を表します。
♪2008年追記:
- Rockman X-100は、古典的ながら本物の中の本物のアナログ超大作かつ名器だと言えます。本当に素晴らしい!
その5:コーラス†
今回は、コーラスについて解説します。
コーラスとBBDの関係†
- コーラスとは、ごくわずかな遅延時間(こだま)を作り出し、そのこだまのかえる時間を早くしたり遅くしたり、周期的に変えることで、音程のわずかな揺らぎを作り、あたかも複数の音が同時に鳴っているかのような効果、すなわち(大勢で歌っているような)コーラスサウンドを作り出す装置です。
- エレキギター用のエフェクターでは、このコーラス効果を作り出す際の、音の遅れを得るために、BBDと呼ばれるアナログ遅延素子を使います。
- このBBD素子とは、コンデンサーに蓄積された音を、バケツリレーのように送り出して出力する純然たるアナログ素子なので、素子からの出力音はこもった音になりますが、コーラス効果に必要なのは、音が2つに聞こえない程度のごく短い遅延時間でいいので、音に揺らぎを起こすのには充分です。
- スタジオ用のエフェクト等で主流の、音質のよいディジタルディレイ・エコー(音を一旦A/D変換して、メモリーに貯えて、一定時間後にD/A変換して再生する音の遅延装置。)でも、音の遅延時間を変化させること(モジュレーション)ができれば、簡単にコーラス効果が得られます。
- 要するに、アナログ方式とディジタル方式があるのですが、極めてシャープな音のするディジタル方式に比べて、アナログ素子を使った装置では、音の柔かさが評価される場合が多いです。この音の柔かさには、遅延音のこもり具合という要素に加え、アナログ回路ゆえの揺らぎの周期のいいかげんさ、そして回路から混入するかすかなノイズが、かえって聴感上心地よく感じる、などの複雑な要素がからみあっています。
BOSSの元祖コーラスCE-1†
- さてさて、コーラスと称して作られたエフェクターは、BOSSのブランド名でローランドが作った、コーラスアンサンブルCE-1がその代表的な元祖製品で、約20年前に製品化されています。当時コーラス効果を、リー・リトナーが使いまくっていたおかげで、なんだこのトレモロ(音量を大小させて音のうねりを作る、フェンダーアンプに内蔵されていたあの回路。)とは違う音の揺らぎ感は! となったわけです。
- このCE-1、いまでも名器扱いされていて、ビンテージエフェクターブームの昨今、ヤフーオークションなどでも25000円で簡単に売れてしまうほどです。このCE-1は、キーボードのレスリー代わりにも使えることを想定したエフェクターであったために、入力回路に音量の補正回路(リミッター回路)があり、この回路がエフェクトOFFの場合も働いてしまうので、エレキギターで使うととてもダイナミックレンジの狭い、情けない生音になってしまいます。
BOSSのコーラスCE-2†
- このCE-1と同様な回路を、コンパクトなエフェクターに改良して、エレキギター用、あるいはエレキベース用にしたものが、CE-2・CE-2Bです。
- こちらでは、CE-1程の音の重厚さがないかわりに、エフェクトOFFの際の音の劣化もないし、なにしろBOSS独特のコンパクト型なので、人気商品でした。
- その後、CE-3~CE-5まででているのですが、CE-2以後の製品はつまみが3~4つまみで、ディレイ周りの効果を細かく調整できるのですが、音の線がなぜか細いんですね。ゆらぎがかえってか細さを演出してしまいます。その点、なぜか旧式のCE-1やCE-2では、ゆらぎがうねりを起こし、音の太さ・幅を演出してくれる点が明らかに違い、いまだに人気を博しています。
- CE-2には、つまみが、DEPTH と RATEしかないので、CE-1に近いのですが、CE-2はややかかりすぎかな?と思わせる欠点があります。実は、ベース用として製品化されたCE-2Bは、CE-2の回路に、ほんの1箇所コンデンサーの定数を変えてあるだけで、大きな違いはエフェクトレベルを増減できるレベルつまみ(ディレイ周りの調整ではない!)が追加されている点です。このつまみのおかげで、ほとんどわからないくらいまで、コーラス効果を減せるので、曲調に合った音の幅を演出できるのが強みなのです。
- CE-2BとCE-2は回路上では、全くといっていいほど同じなのですが、なぜかCE-2のOP-AMP ICが JRC 4558D なのに対して、CE-2Bは JRC 4558DD が指定されて使用されているようなのです。 4558Dでは中域のFAT感があるので、ナチュラル志向が強いベースには向かないと考えて、フラットな特性の 4558DD を指定してあるではないでしょうか?
- ちなみに、ヤフーオークションなどでは、水色・銀ネジCE-2は18000円以上なのに対して、CE-2Bは5000円程度またはそれ以下の金額で取り引きされているようですね。
全く同じ回路(基板)でも、ほんの少し味付け(部品)が変われば、音もがらっと変わるし、その製品の評価・人気、そして中古市場での金額までも違ってしまう、そんな不思議な運命をたどったエフェクターのお話でした。
♪2008年追記:
- CE-2B/Superなるモディファイでは、CE-2相当の状態にする調整に加えて『良い音への修理』音抜けチューンが施されています。