RE-J Project立ち上げ5周年にあたって 2007/02/06
RE-J Project立ち上げ5周年にあたって、今までご支援いただきました実に多くの みなさんへの感謝の気持ちで一杯です。ほんとうに、ありがとうございます。 ここ5年間の活動を振り返り、お世話になったみなさんに再度私の理念をご確認いただく 意味合い、そして、これから先に新たなお知り合いとなるみなさんへのご挨拶のため、 ここに、盛りだくさんの『よもやま話』を添えてのメッセージを残します。
♪前書き♪: 今までどちらかと言えば寡黙な5年間であったと思います。その理由は、私なりの少々 こだわりのある活動方針を言葉で説明しても、充分理解していただけないのではないかと 不安に思っていたからです。しかし、なんの裏付けもないところから始めたRE-J Projectが、 5年間という歳月に渡って、当初の理念をなんら変えることなく続けてくることができたこと、 この間にたくさんの新しい音を日米両国に送り出せたこと、相変わらず私とAnalogMan/Mikeの 多忙さが減るきざしが見当たらないことなどから、ある種の自信をいただけました。
5周年という節目にあたって、自分なりの言葉でなるべく多くの説明をし、私なりの考え方と RE-J Projectの活動理念をできるだけ多くの方に正確に伝えたい。このように考えました。 このため、このメッセージにおいて、別の方の活動方針や理念と相反するようなコメントと なってしまった部分もいくばくかありますが、何卒ご容赦いただきたいと思います。 これらのコメントは、あくまでも私を支援してくださる多くのプレイヤーの方々が持つ共通の 認識からくるものであり、私はその認識を代弁しているというご理解をいただければ幸いです。
より良い音を奏でることを目的としたアナログ回路の調整は本当に難しいのです。 我々は正しい調整を施した後にだけ得られる素晴らしい音、プレイヤーが自由自在に操れる 『声』とも呼べる音色を得るために努力しています。
我々の行動哲学、"We do pedals right!"(我々はペダルを正しくする)という言葉の 意味するところは、プレイヤーがとても気に入ってくれるペダル、そのペダルを使うことで 得られる伝説の『音』、これらを現代に復刻し、かつての伝説の音と名演奏によって 我々が得た感動をも蘇らせようというものです。 気をつけていただきたいのは、我々はペダルそのものを機械的に製作しているのではなく、 正しく調整されたペダルに込められた『音』を提供するという哲学を持っている という部分です。
我々は、プレイヤーとは第三者を介さず直接メール連絡によりやりとりをしていますので、 プロギタリストから演奏を楽しむアマチュアまで、その幅は実に広いのですが、 あくまでも真のプレイヤーのニーズを実現することが求められます。 この結果として我々には『音』そのものを非常に重視したモディファイの提供が多くなり、 プレイヤーが追求してやまない『実に細かな音のニュアンス』にまでこだわる方向性となるのです。
☆★☆ 究極の古典的アナログペダル ☆★☆...
回路図から音を構成する部品を抜き出すと、伝説のペダルとして有名な古典的Fuzzには12個、
'60年代の名演奏でしばしば登場する古典的Wahペダルには20個の部品が使われています。
いずれのペダルも、多くの日本製の市販ペダルと比べれば極めて少ない部品点数であり、
いわゆる能動素子はたった2個のトランジスターだけという極端なシンプルさが特徴です。
回路の上で隠された部分もなければ、電気的仕様で探すだけなら特別手に入りにくい部品も
ありません。しかしながら、回路図だけを基にこれらのペダルを再現したとしても、
「なにか間違えたのだろうか?」と思えるほど違和感のある音がでてくるケースが大半で、
宝くじに当たる程度の確率で伝説の音に近いものが再現できることになります。
もちろん、回路が間違っていなければちゃんと動作はしますし、より良い音の追及者で なければ問題が生じないこともありますが、優れたプレイヤーにとって自分の演奏技量を最大限に 発揮・表現するために必要不可欠な『音楽的な鳴り』が不足する、単刀直入に言えば 「弾いていてつまらない音」「すぐに弾き飽きてしまう音」になってしまうのです。
☆★☆ Vintageペダルの存在 ☆★☆...
Vintageペダルの存在、すなわち同じ回路なのに現代のものよりもはるかに素晴らしい音を
持つペダルの存在は、電気的な知識の豊富な人ほど否定的となり、そのこと自体は決して
誤りではありません。実際、かつては私自身もその代表的な一人でした。
ただ、私は自分自身がプレイヤーであったため、『求める音』が先に存在し、それを再現
するために全力を挙げ、結果『自分の組み上げた回路は間違いなくとも、自分の求める
音が再現できていない』ケースに多々遭遇し、回路ではなく『良い音』を基準とする
新たな研究を始めました。この方向性によって、アナログ回路を『正しく調整する』こと、
バランスを取ることの大事さを米国のAnalogMan/Mikeと共有することになったのです。
☆★☆ Vintageペダルは存在するか? ☆★☆...
Vintageペダルは存在するともしないとも言えます。たった1個の部品の存在(存在であって
部品自体ではありません)が回路全体の動きを変え、音を変えてしまうこと。
これが真実であり、Vintageペダルと呼べる世代のペダルであっても正しい音を持たない
ケースも多々存在します。しかるに、ペダルの外観や生産時期だけではVintageペダルとは
ならないけれども、そのVintageペダルに求める音が存在するとプレイヤーが納得した場合、
そのペダルは、その瞬間『その人にとってのVintageペダル』となります。
☆★☆ 電池も部品? ☆★☆...
私は、音を構成する部品と前置きした古典的なFuzzと古典的なWahの部品点数に、
『電池』を1個として加算しています。なぜなら、これらの古典的回路のペダルにおいては、
電池自体は音を構成する非常に大事な部品だと言えます。正しい状態にある古典的なFuzzと
古典的なWahにおいては、できるだけ安い普通の『マンガン電池』を使うのがベストです。
アルカリ電池やACアダプターでは、これらの古典的回路が完全に鳴り切りません。
(もちろんそれなりに音は出ますが、一番『おいしい音』が引き出しにくいという意味です。)
☆★☆ Jimi Hendrix ☆★☆...
どこかで見かけたJimi Hendrixのローディーの話で、Jimiは音に関して実に厳しかった、
気に入らないとすぐペダルを交換するのだけど、しまいには一巡してしまい既に試した
ペダルを出すと、「これだよ、俺が求めていたのは!」と納得した、というのがあります。
最初は単なる笑い話だと思っていましたが、FuzzやWahが電池の消耗や温度にさえも
影響され、音が変わってしまうことを知ってからは、「聞き分けていたのだ!」と妙に
深く納得してしまいました。真におそるべきは、プレイヤーの耳と感性であり、
Vintageペダルが存在しないかもしれないと言った理由の一つがこの部分にあります。
なぜなら、その瞬間に『Jimi HendrixにとってのVintageペダル』だったのは事実でも、
何年か後に伝説の名演奏を奏でた『Fuzz Face』がオークションに出品され、1億円で落札
されたとして、その瞬間の音がでてこない、単なるコレクターにとっての価値しかない
ものになっている可能性さえあるからです。
ここが、音の状態と価値が激変はしないであろうVintageギターと、デリケートさと
リスクが存在するVintageペダルとの大きな違いだと言えます。
Vintageペダルから出せた『伝説の音』は幻だったのでしょうか? いいえ、正しく調整すれば蘇ります。
☆★☆ よもやま話 ☆★☆...
脱線しますが、もしも、ディジタルエフェクトが伝説のFuzz Faceの音や、最高の音のする
Dyna Compの音を再現できる世の中になるとしたら、ギターから送ってこられる電圧信号
だけを分析して、アナログ回路ならこう動作する、このように歪む、このように音が伸びる、
このようにノイズが乗るといった振る舞いをせねばならず、それは装置の心臓部となるDSPに
極めて多面的なプログラムパターンを持ち、それらをリアルタイムに切り替えて、
かつ違和感なく音をスムースに繋ぎ、一連の音声信号に変換して出力せねばなりません。
一体本当に実現可能なのでしょうか?DSPのプログラムに音を変えるアルゴリズムではなく、
トランジスターの限界動作特性までを全て加味した『アナログなプログラム』を実装すれば
実現可能かもしれません。
☆★☆ アナログペダルの利点 ☆★☆...
私が基準としているのは、プレイヤーにとっての『良い音』であり、これを実現するために
個人でできる最大限の研究をしています。また、米国のAnalogMan/Mikeと一緒に、
古典的アナログ技術を活かし、本物のプレイヤーが納得できる音を与えたシンプルな
ペダルの開発に挑んでいます。
では、プレイヤーにとってのアナログペダルの利点とはなんでしょうか? 私は、『ギターを弾くことで自由に操れる』ことだと考えます。 それは、ギターを弾けば新しい音へのアイディアが湧いてきて、感性の趣くままに 演奏技量を発揮すれば、音がさらに説得力を増して答えてくれ、プレイヤーの感性と アンプからでてくる音との間に絶妙のフィードバックが生じているような状態から イメージされます。
☆★☆ お願い事項 ☆★☆...
まずは、私の提供する技術、アナログペダルに対する『モディファイ』(より良い状態に
するとの意味)技術と、いわゆる電気的な改造作業は区別していただけないでしょうか。
アナログペダルに実装された部品を変えれば音は変わります、音が変わると面白くなって
どんどん変えたくなり、最後にはエンジニアの発想として切り替えスイッチを搭載する方向、
すなわちいくつもの音を提供できる多機能型ペダルを提供し、これがあたかもモディファイで
あるかのように市場では支持されているようですが、私に言わせればこれはエンジニア主体の
電気的な改造作業であって、プレイヤーを基本とする私の理念はほぼ正反対に異なるものです。
私は(ちょっと特殊ですが)ずっとエンジニアとしてみなさんに接していましたが、
実際は多くの方が私をプレイヤー仲間またはミュージシャンだと感じてくださるようです。
☆★☆ シンプルイズベスト ☆★☆...
私は基本的には音を切り替えるようなスイッチは一切搭載したくないのです。
なぜなら、演奏中にトグルスイッチを触ったりできないから、そしてプレイヤーに『迷い』を
起こさせたくないからです。切り替えで実現できる音の種類が多いということは、
もしかすると現在の設定よりも良い設定があるかもしれないという思いをプレイヤーに与えます。
これが私の言う『迷い』の基となり、スタジオでのレコーディングであれば音作りの
アプローチに役立つ大事な機能になるのかもしれませんが、ライブでの演奏の場においては
演奏に集中することを妨げる要因になりかねないと思います。
複数の音が必要であれば、即座にフットスイッチで切り替えられるラックマウントエフェクトや、 ディジタルマルチエフェクトのほうが合理的解決策となるのですから、そもそも不器用な アナログペダルには、たくさんの選択肢を詰め込んでしまわずディジタルシュミレーション では実現することが困難な『音』を主体とした守備範囲を受け持たせてやりたいのです。 こういった観点から私は、『延々と弾き続けていたくなる、たった1種類のベストと呼べる音』を アナログペダルに求めています。
☆★☆ ギター側の操作に追従する ☆★☆...
私は、弾くという感性の延長で操れるペダル、演奏に専念できるペダルを当初から目指して
いました。このため、モディファイ作業や新しいペダルの開発において最優先する非常に
大事な判断要素があり、それは、『ギター側の操作に追従する』ということです。
たとえば、最も顕著なところでは古典的Fuzzの動作ですが、ギター側のボリュームを少し
絞るとさっきまで嵐のような音がしていたのに、急にからっとした乾いた音色に変わります。
このような動作こそが、伝説の名演奏で聴けるめりはりの基となり、素晴らしいプレイヤー
による多彩な演奏表現を支え、声とも呼べる音を実現するのだと思います。
☆★☆ BD-2/Super & BD-2/Pro+ ☆★☆...
ギター側の操作に追従するというコンセプトに基づき、そもそものBD-2の良さを一層進化させ、
私にとっての理想の形として仕上げた具体例が BD-2/Super と BD-2/Pro+ です。これらの
ペダルでは、最大GAINに設定してあってもギターのボリュームを絞り込むと、まるで
ペダルを通過させていないかのような音がアンプから引き出せるよう工夫してあり、
その守備範囲は少なくとも大方のアンプより広いはずです。「ペダルを通すと音が
悪くなるに決まっている。少なくともギターのボリューム10でしかまともに迫力のある音は
だせっこない。」と思っておられる方には信じ難い世界を提示することとなります。
もちろん、歪み方や音の迫力などについてはアンプで得られる音のほうが好みか、 BD-2/Super や BD-2/Pro+ の音で充分納得できるかは各個人の価値感によりますので なんとも言えませんが、少なくともライブにおいては、自前のアンプを持参しなくとも 一定の次元の音が引き出せますので、そういった面で私がイメージする 『演奏に専念できる環境』を具体化させる選択肢の一つであり、いわゆるエフェクター とは思われず、良質なプリアンプであるとお考えいただいたほうが賢明だと思います。
☆★☆ 1音目から演奏に専念 ☆★☆...
私自身、フットスイッチでチャンネル切り替えのできる真空管アンプを持っていますが、
ちゃんとクリーンな音が鳴るアンプと、 BD-2/Pro+ を代表とするペダル類が揃えば充分
納得ができる音作りができるようになってしまいましたので、今ではペダル達しか持参
しません。演奏場所が変わり、アンプが毎回変わっても、最短時間の調整で1音目から
演奏に専念できるということが、これほど楽しいことだとは思いませんでした。
☆★☆ 賢く振舞うペダル ☆★☆...
ギター側のボリュームに追従するという概念は、 TS-9/808/Silver 単体についても
もちろん考慮されています。私が何十年も前から夢描いていた理想の音のひとつが
TS-9/808/Silver で BD-2/Super または BD-2/Pro+ をブーストすることで得られる音、
ソロ向きの濃厚な音なのですが、実はこのソロ向きの濃厚な音においても、ギター側の
ボリュームに追従するということに関して、開発当初から充分な考慮がなされています。
ギターを弾きながら巧みにボリュームを駆使して実に幅の広い演奏領域が実現できるのです。
このことは、歪みペダルの音質と言う言い方では決して表すことのできない『特徴』であり、
ましてや電気的な性能では説明できない部分ですが、プレイヤーの感性からは比較的
直感的に「気に入った!」と言っていただける大事な要素となります。
ここで、大事なことがあるのですが、ギター側のボリュームに追従して音のニュアンスが 変えられ、かつ演奏表現に使える音を維持できているということは、ピッキングの強弱に ついても音に反映できる能力を持っていることと等価だという点です。 逆説的に言えば、ボリュームを絞ると音が劣化してしまうとしたら、弱いピッキングの 演奏表現には耐えないというのが私の考え方です。 多くの市販品のペダルに存在する弱点がここにあると思いますし、この点を解消したいと 強く願ったことが私自身のプレイヤーとしての観点での出発点であり、その後自らの手で モディファイ作品を開発し提供することになった理由なのです。
また、ピックアップを切り替えたり、ギター側のトーンを操作して音のニュアンスを 変えてやるためには、そもそも音のロスをすることなく豊かな弦の鳴りを確実に伝達できる ペダルであるべきです。これに加えて、ギター側の操作や弾き方の変化に応じて、 ダイナミックに音色や響き方までもが少し変化してくれる『表現力豊かな特性』こそが プレイヤーの理想となります。 アナログ回路ならではの利点と調整手法を駆使し、数々の知恵と工夫を施すことによって、 ギターとアンプとの間で賢く振舞うペダルが完成します。
☆★☆ 良い音への修理とは ☆★☆...
こういった概念の音を持つペダルを実現する作業と調整過程こそが私の提供する
『良い音への修理』『モディファイ作業』そのものであり、一つ一つの部品を交換する理由、
その部品が目指す音にどう寄与しているか、本当にその部品が適材適所であるのか、
全体の音のバランスをとるために次に何をすべきか、といった綿密な判断を繰り返し、
最終的に選ばれた部品達がペダルに残され音が完成しているのであり、はじめから
部品交換ありきの機械的な作業ではありません。
☆★☆ 音抜けチューン ☆★☆...
例えば「TONE設定を上げると耳にうるさいけど、絞ると音抜けが悪くなるから少し上げる」
「あまり歪ませたくないのだけど、音に迫力が足りないからGAIN設定を少し上げる」
といった調整になってしまうとしたら、それは音のロスのあるペダルだからなのです。
時々、「TONEの効きをよくしたり、GAINをアップするような改造は可能か」というような、
私が良い音への修理では使っていない言い回しでのお問い合わせがありますが、そういった場合
私は、「音抜けチューンを施して音のロスを取り除き、音に芯がある状態に調整すれば、
TONE回路をあえて改造しなくても積極的に機能するようになりますし、今までよりも少ない
GAIN設定で太く迫力のある歪み音が引き出せるはずですので、ことさらに改造する必要は
ないと思います。」とお答えしています。
入門用ギターとプロが使うギターは、外見が同じであっても『音の芯の太さ』は 別格であり、入門用のギターをプロが使うグレードに調整することは事実上不可能 ですが、音抜けチューンはペダルに対する音の次元を革新し、音の芯の太さをプロの 使用にたえうる状態にする作業だと言えると思います。
☆★☆ 演奏を楽しむため ☆★☆...
こういったコンセプトにより、『音のロスのないペダル』『音を豊かなニュアンスに
変換できるペダル』を実現すると、それまでの「ペダルを通すと音が悪くなる」
「ペダルを通すとギターのボリューム10の時しかまともな音がでない」
「しょせんアンプ直結の音にはかなわない」といった概念が打ち破られ、その結果、
今まである種の妥協点を探しては設定をしていたジレンマペダルではなく、
演奏を楽しむために積極的に使いこなせる相棒と呼べるペダル、ストレスのない
ペダルが誕生します。あるプロの方に言われたのですが、「RE-J Projectのペダルでは、
ストラトはストラトらしく楽しい、レスポールならこれまたレスポールらしく楽しい、
今までと違ってギターとペダルの相性を考える必要がありません。」と。
☆★☆ Improved Vintage Sound ☆★☆...
ペダル全体の音を表さないので部品に関する説明は積極的には行なっていない私です。
AnalogManインタビューのほうに、TS-808の音の謎などについて私の考えを盛りだくさんに
紹介していますので、そちらも参考にしていただければと思います。
既に説明したように、アナログペダルを正しい状態に調整するために最も重要なことは、
『どのような音であるべきか』を正しく認識することであって、電子回路の専門知識や
部品の特性を知ることが作業の補助になることはあっても、それだけでは決してプレイヤーを
納得させることはできません。ペダルの製作者がいくらすごい音だと思っていても、
プレイヤーに首をかしげられることは多々あります。本物のプロギタリスト達の研ぎ澄まされた
感性と耳に対抗するには、古典的な良い音に学び、正しい音の状態を作り、それをさらに
1歩改良することしかありません。これが、我々の提唱する『Improved Vintage Sound』
改良されたヴィンテージサウンドという概念の示す方向性となります。
☆★☆ 条件反射のような聞き方 ☆★☆...
プレイヤーにとっての『良い音』という概念を基本にすると、部品について細かい解説を
すること、部品と音を直結して説明してしまうことがプレイヤーにとっては無意味だと
いうことに気付かされた私は、RE-J Projectの立ち上げから一貫して、地道に言葉で音を
説明するという手法をとってきました。
私の提供する作業で得られる効果を、プレイヤーの観点で粘り強く説明してきました。
音を扱うのだからサンプル音源を作っては、という声もいただきましたが、他人の弾く
音を聞かされる場合は、どうしても観客の耳になってしまい、自分が演奏している音を
聞く場合とはニュアンスが異なるという考えから行なっていません。
自分が弦をヒットした際にアンプからでてくる音を聞き、無意識に次のフレーズに移る、
この条件反射のような聞き方こそがプレイヤーにとって『自分のイメージを音にする』際に
最も大事なことだと考えています。
私が、新しいモディファイ作品を開発した際に必ず行なう最終テスト項目、それは 『なにも考えず、一切音の良し悪しなどを聴かず、プレイヤーとしての心の趣くまま弾く、 ひたすら弾き続ける。10分間飽きずに弾けたら合格!』です。 エンジニアである自分、プレイヤーである自分、そして音楽を創造する立場として 客観的に聴きかつ参加するPAエンジニアのような自分、これらを使い分けていることが 私のモディファイ作品達の音の完成度を高めるのに役立っていると思います。
☆★☆ 部品について ☆★☆...
なぜ私がBBDという例外を除いて、部品に関する説明をほとんどしないかという最大の
理由は、部品についての説明では、ペダル全体の音を正しく表すことができないからです。
一定の水準の音に調整するために必要となる部品に関して、実際のところ舞台裏での
苦労は語りつくせないものがあります。
ですが、良い音を求めて私に作業を依頼されるみなさんにとっては、私がどんな苦労を
積み重ねて部品を選び音を仕上げたのかを知ることは本質ではなく、まずは出来上がった
音が満足いくものかどうか、そして出来上がった音が費用に見合ったものであるかまでが
本来の興味の対象であるはずです。
莫大な苦労を重ねて部品毎の音の特徴を知り、アナログ回路のどの部分にどの部品を
使えば効果を発揮するのか、どうすればプレイヤーが期待するバランスのとれた音に
仕上げられるのか、そういった苦労は私が背負っていればよいことで、みなさんは
どんな部品を使ったかは知らないまま、私がベストの音に調整したことだけを信じて
くださり、ひたすら演奏を楽しむことに専念していただければよいと思います。
☆★☆ ばらつき ☆★☆...
例えば、TS-9と一口に言っても、実に多くの部品のばらつきがあり、モディファイ
作業を依頼をされたペダル現物を手にとってみるまで、一体どれだけの部品を変え
なければ私にとっての正しい音の基準に達するかはわかりません。MAXONさんが生産を
やめて以降の現行品Ibanez TS-9では、MAXON世代のものよりも不確定さが増えており、
TS-9/808/Silver の開発時よりも既に数点多くの部品を交換しないと私の基準に
達しません。BOSS SD-2には、基板の種類が2種類あり、部品の搭載状況や種類も
生産時期によってばらつきがあるため、基本作業に対して5個多い部品を搭載
しなければSD-2/Superと呼べる音にならない個体が存在します。
それでも到達する音は同じなので、同じ費用をいただいています。
幸いなことに、BOSS BD-2は部品のばらつきがほとんどないと言える機種なので、
作業においての安心感はありますが、音のチェックだけは気を抜かずに行っています。
逆に亜種が多数存在するTS系のペダルに関しては、気の遠くなるほど多くの部品の
ばらつきがありますが、いかなる個体であっても正しい調整を施すことが私に課せられた
大事な使命なので、いつも淡々と作業をこなしています。
学ぶことも実に多いですが、苦労もそれなりに多く、送り返したぺダルを
『気に入った!』と直接メールでお知らせいただける環境でなかったとしたら、
ここまで続けてくることはできなかったと思います。
☆★☆ 音の絶対価値 ☆★☆...
私は、音の絶対価値に対して、モディファイ費用を決めているのです。
音の調整に何十時間かかっても、たった1個しか部品を変えなくても、結果として
プレイヤーにとって同じ価値のある音に仕上がったのであれば、それは同じ費用で実現
できるべきという発想を持っています。
たった1個しか部品を変えなかったのに費用が安くならないなんてけしからんと
思われる方がおられるとしたら、それは作業の手間や交換した部品の個数に比例して
良い音が得られるという考えをしておられるからです。私は違います。
たった1個の部品であっても、多くの場合それは無数の選択肢のなかから選んだ最大限の
効果を発揮できる部品であり、このたった1個の部品の交換によってペダルがベストの音に
なったとしたら、それはそもそものペダルの完成度が高かっただけであり、一つでも少ない
部品を変えることのほうが、そのペダルにとっても私にとってもハッピーなことです。
また、90%の完成度の音がたった1個の部品を変えて100%の完成度を持つ音になったとしたら、
それは人前で演奏するプロギタリストにとって50点の音が100点満点になるほどの価値感を
持って歓迎してくださいます。
☆★☆ べダルの個性 ☆★☆...
私は、少しでも少ない部品を交換し、少しでも次元の高い音にすることを作業の指針に
しています。それが、べダルの個性を維持したまま、最高の状態の音にする秘訣であり、
ペダルの存在意義を高める良い方向性であると確信しています。
例えば、電気的にはSD-1をTS-9に変えてしまうことができ、もちろんその逆も可能ですが、
それではあまりにペダルの尊厳や個性が阻害されてしまうため私には耐え難いことです。
やっぱりFuzz Faceを踏んだらご機嫌なFuzzの音がでてほしいですし、多少ニュアンスが
違っていてもFuzzの音なら許せますが、チューブスクリーマーのような音がでてきたら
思いっきりがっかりしてしまいます。伝説の名演奏でプレイヤーがペダルを踏みつける
瞬間のわくわく感!そして出てきた音への感動と憧れ!この感覚が私をずっと動かして
きた原動力の一つだと言えます。
☆★☆ そのペダルらしい良さ ☆★☆...
音をことさらに変える気がなくても、あまりにも多くの部品を仕込んでしまった場合に、
そもそもそのペダルに対してプレイヤーが求めていた音の利点「そのペダルらしい良さ」を
失ってしまう確率は高くなると言えます。
プレイヤーにとっての観点で、そのペダルの持つ存在意義を残し、演奏を行なう
上で妨げとなる部分を改良し、ほんの少し新鮮なニュアンスを加える、そうすると、
プレイヤーにはストレス・弾き疲れがなくなり、肩の力を抜いて音を奏でることに
専念できるようになり、結果として説得力のある演奏が生まれます。
☆★☆ 配線と配線材料 ☆★☆...
配線について考えてみます。私は古典的なペダルである例えばMXRの古いペダル、
ROSSのコンプレッサーなどにおいて、配線が非常に重要な音の個性を示している
ことを知っています。例えば、ROSSのコンプレッサーにおいては、入出力ジャックの
グランド渡り線が省略されており、ペダルのボディがアース線の役割となり、
独特の味わいを持つ音を演出しています。
こういった場合、トゥルーバイパス加工を施す際にグランド渡り線を追加すると
音がシャープになりすぎて面白くなくなったとプレイヤーに言われてしまうかも
しれません。
ですから、基本的には配線を残すことこそがペダルにとってベターなことだと
考えています。時には、肝心のメーカーによって音が損なわれてしまうような
間違った配線方法が行なわれているケースがありますので、状況に応じて判断し
最低限の作業で配線を最適化するよう心がけています。
配線材料についても注意が必要です。配線材料を変えることは、音をいくぶん 変えたり、音全体を整える効果に寄与します。しかし、ペダルが持つ個性を維持し、 音の魅力を高める方向にいくかどうかは実に難しい判断を伴います。 多くの伝説のペダルがそうであったように、ごく普通の配線材料を使用することが 一般的にはベターであり、本当に次元の高い音を必要とする本物のプレイヤーに 対して、たしかに特殊な配線を行なうことがありはしますが、あくまでも最後の 仕上げの作業として真に必要な場合にとどめています。
☆★☆ 時間との戦い ☆★☆...
私に与えられたペダルの調整時間が5時間あるとしたら、私は音の調整に3時間を
かけ、残りの1時間で音のチェックを行い、一晩寝て再度音のチェックを行います。
ペダルを正しく調整し、正しく音を聞き分け、正しく判断するためには、この
やり方がベストだと思います。しかし、配線作業にまで手を広げると、
音の調整と配線作業だけですぐに5時間が消費されてしまいます。配線作業は音を
仕上げる効果はありますが、音を正しく調整する作業にはほとんど寄与しません。
なぜなら、配線材料は音を伝達する素材であり、ペダルの中の部品達のように、
1個の部品の存在がペダル全体の音のまとまりを変えてしまうほどの重大性を
持たないからです。しかし配線変更には、部品交換よりもむしろ慎重にならないと
いけない側面もあり、信頼性を維持しつつ最適な配線を行なおうとすれば、検討も
含めて莫大な時間が加算されるため、『優れた音を、できるだけ多くの方に、
リーズナブルな対価で提供する』という私の活動方針からしても積極的には
行なえないのです。
☆★☆ アナログディレイについて ☆★☆...
「アナログディレイの音なんて、高音が落ちただけのこもったエコー音だから、
ディジタルエフェクトで高音をフィルタリングして再現するほうが性能も良くて
扱いやすい。」という考え方は周波数特性だけを基準とした観点での正しさはあります。
しかし私は、アナログディレイの存在意義を、周波数特性といった測定器で測れる
要素以外の部分に見出しています。アナログディレイには、アナログ回路ならではの
特徴や挙動によって自然に生み出される優れた効果、他のアナログペダルにも共通する
ことなのですがプレイヤーの演奏表現を支える隠された能力が存在すると思います。
アナログディレイには、『時間軸での変化』と『限界動作状態での挙動』が存在します。 正しく調整されたアナログディレイであればあるほど、これらの特徴や挙動が効果的な 働きをして、ギターとアンプの間に配置した場合、プレイヤーを影ながら支えることが できるのです。
☆★☆ 時間軸での変化 ☆★☆...
たしかに、アナログディレイの周波数特性はディレイ音の高音がばっさり落ちた
ものであり、かつリピートするたびに高音成分がいくぶん減衰すると言えます。
しかし、周波数としての高音成分だけが減衰しているのではありません。
アナログディレイでは、リピートする毎に音がどんどん崩れていくようなイメージ
(高音の減衰もさることながら、音自体がつぶれを起こしたような状態)になって
いきます。これは、BBDという信号遅延素子と音声圧縮伸張素子を毎回くぐりぬける
ことによって音がどんどん時間軸に添って変化していくからですが、高音の遮断周波数を
少しづつ下げただけでは再現できていないと思います。
どちらかと言えば、現実のこだまのように、音が反射するたびに少しずつ音の鮮度が
失われていく、すなわち壁にこだまするたびに音が割れていく雰囲気に近い味わいを
持っています。これが、時間軸での変化の意味です。
この時間軸での変化のカーブが、リピートされる音に味わいと面白さを演出して
くれますし、遅延時間を短く設定した際、いわゆるショートディレイ音においては、
独特の雰囲気の空間的響きと、魅力的で複雑に揺らぐ音をアンプに送り出します。
☆★☆ 限界動作状態での挙動 ☆★☆...
限界動作状態での挙動ですが、多くのディジタル装置が苦手とする領域がこの分野です。
これは、入力信号レベルが過大となり、音が歪んでしまう状態に起こる挙動のことなの
ですが、ギターの世界で未だに真空管アンプが使われていることからもわかるように、
プレイヤーは非線形の歪み、すなわち歪む手前の状態では、できるだけ明瞭な音が得られ、
力強く弦をヒットしたら思う存分音が飽和する(迫力のある太い歪みの意味)という
めりはりの効いた挙動を好みます。最高級のオーディオセットにギターをつないでも、
プレイヤーの耳には実につまらない音に聞こえるのは、この非線形の音の要素がさほど
存在しないからだと思います。
非線形の歪みは、アナログの信号遅延素子BBDとその手前の音声圧縮伸張素子において 比較的容易に起こります。このため、アナログディレイに過大な入力を入れると確かに 歪みは生じますが、ディジタル装置に比べれば穏やかな音となり、アンプからは必要 以上にぎらぎらした音が再生されずに済み、多彩な演奏表現を支える要素となります。 アナログディレイ内部で音を循環させ、いわゆる発振音の効果を発揮されている状態に おいては、まさしくアナログディレイ内部で音の飽和と最大限の歪み現象が起きて いますが、これと同じことを周波数特性の優れたディジタルディレイで起こしたら、 おそるべき攻撃的な破壊音がアンプから再生され、とてもアナログディレイでの 発振音のようにディレイタイムを上げ下げさせる気にならないと思います。
このような、アナログ回路ならではの優しさのある性質、真空管アンプと相性の よい動作全般のことを限界動作状態での挙動として説明しました。 実は、アナログのオーバードライブペダルで得られる音は、意図的にこの限界動作 状態での挙動を引き起こし、巧みに制御することで実現されており、必要以上に 音を変えてしまうことなく、充分な非線形の歪みの要素を持っているので 多くのプレイヤーから支持されているのだと思います。 私にとっての相棒と呼べるアナログ部品、『JRC4558D』の限界動作状態での挙動から 得られる『音』は実に音楽的であり、アナログペダルの音を魅力的に仕上げてくれます。 詳しくは、AnalogManインタビューを読んでみてください。
☆★☆ 締めくくり ☆★☆...
あわただしさの中で RE-J Project 立ち上げ5周年の日が迫り、AR20DL/Pro+の
正式リリースも同じ日に設定してしまったため、大変多忙な状況でこのメッセージを
一気に書き上げました。このため、まとまりがない部分も多々あると思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!